3人目の富江に酒井美紀を迎え映像化されたシリーズ第3弾『富江re-birth』の大ヒットを記念して、上映劇場の新宿ジョイシネマでは、5月5日の上映前にスペシャル・トークショーが開催された。トーク・ゲストは、ネオ・ホラー・コミックの旗手である御茶漬海苔先生、怪談本『新耳袋』の著者である木原浩勝氏、そして『富江 re-birth』の清水崇監督という最恐の3名で、映画文筆家の鷲巣義明氏の進行で今回の映画や原作から恐怖表現に関してまで中身の詰まったトークが繰り広げられ、多くのリピーターを含む観客を楽しませてくれた。







トーク・イベントは、『富江re-birth』に関してのゲストの方の感想からスタート。「大好きな作品で、映画版シリーズでは一番ホラー的な要素と美しさが出ている」という御茶漬海苔先生は、実は昔からの酒井美紀さんの大ファンでもあるそうで、今回の富江像も伊藤潤二先生の原作に近いと強い満足感を感じられたそうだ。一方、恐怖表現と映像分析にも詳しい木原浩勝氏からは、「前作『呪怨』にショックを受けたクチなので、もっともっと怖くして欲しかった。今後もさらに期待します」と、さらなる恐怖に向けての注文も。なお、清水崇監督自身は今回の作品を撮るにあたって、『呪怨』を観てくれた人たちが心霊タッチの恐怖を求めてくるだろうから、逆にそれを裏切りたい、もっと怖い作品をという方向とは別の方向で撮りたかったのだそうだ。このため、「恐怖表現が押さえ気味と言われればその通りかもしれませんが、富江自体よりも素の遠藤久美子ちゃん(北村ひとみ役)の日常にふと潜む部分などで、恐怖を描きたかった」とのこと。鑑賞時には、そうしたさり気ない部分をチェックしてみるといいだろう。なお、劇中の巧とひとみの恋愛描写には、監督自身の実体験が6割ほど反映されているなどという話しも飛び出した。

監督としてデビューする前から『富江』の映画化は念願だったという清水監督にとって、原作の魅力はズバリそのヴィジュアル。内面的なものも絵に持っていく伊藤ワールドを、いかに映像化していくかが楽しみだったと語る。ゲストのお二人も、「原作は大変優れたホラーで、受け入れる方にも原作と映像化のすみわけが出来ていて、なおかつ映像作品が作られていくたびに、新たな映像化の可能性が広がっていく優秀な原作であり、誰もが監督力を試したくなる素材だ」(木原氏)、「伊藤先生は日本人の中では特に細かいタッチのマンガを書かれるが、人間と人間との間の恐怖心がつのってホラーとなっていくなかで、それらが集約されたところで、なぜ富江を好きになってしまうかがよく出ている」(御茶先生)と、それぞれの立場から伊藤ワールドの魅力を検証した。










『呪怨』『富江re-birth』と、和製ホラー作品で着実に地歩を固めている清水監督だが、その魅力に関して木原氏は、「しつこいこと。その場面が何故怖いのかということへの要求度が高く、場面の隅々まで神経が行き届いている。ホラーに限ったことではないが、場面を追求していく人がなくなってきた中で粘る数少ない存在です」と、力のこもった口調で語る。お二人のお付き合いは、木原氏が書いた(共著)怪談本『新耳袋』の大ファンであった清水監督が、脚本家の高橋洋氏に紹介されてから始まったそうだ。「高橋洋の弟子で、黒沢清の弟子」(木原氏)という「国産ホラー界最強のハイブリッド」(鷲巣氏)という清水監督は、ホラー映画以外のジャンルにも挑戦していきたいと語る根っからのストーリー・テラーである。なお、次回作は再び最恐の恐怖を追及する映画を準備中ということで、やはりホラー・ファンには心強い存在だ。また、「一度目より二度目の方がさらに好きになった。美しい中に怖さが滲み出てくるのがより感じられる」とは、御茶先生の言葉だが、実際会場にリピーターの方の姿が多々みられたことも、同じように感じたファンが多かったということだろう。

恐怖表現を追及する3人の方々だが、果たして現実では怖い体験などあるのだろうか。近況とともにそれぞれ語ってくれた。6月15日発売予定の『新耳袋第六夜』の初校が先日上がったという木原氏は、その日以来熱が下がらない状態が10日間も続いているとのこと。この日も収録予定の話を一つ披露してくれたが、それ自体がかなり怖い話で、本の完成が楽しみだ。清水監督は、現在準備中の次回作の脚本執筆中、登場人物に昔の彼女の名前だけ借用し、福祉を勉強しているというオリジナルの設定をしたところ、久しぶりにその彼女から電話がかかってきて近況を話ていたら、実際に彼女が福祉関係の道に進んでいて、その偶然にちょっとぞっとしたという。御茶先生は、霊感は特に持っていないが危機管理能力が非常に高く、そういう意味では守護霊のようなものを感じるという。そんな御茶先生が原作のコミック『惨劇館』は、現在映像化及びプレイ・ステーション化がそれぞれ進行中とのことだ。

最後は清水監督が「今日が二度目の方もいらっしゃれば初めての方もいらっしゃいますので、あまり内容にはふれないようにトークを進めてきましたが、今まで出てきた色々な話を聞いた上で、それぞれの方が素直に観ていただければと思います。何処が怖く、何処が怖くなく、何処が笑えるか…」と会場に挨拶し、トークショーは幕を閉じた。

なお、『富江re-birth』は、新宿ジョイシネマにてレイトショー公開中です。

執筆者

宮田晴夫

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