第22回ぴあフィルムフェスティバル
グランプリ・企画賞・エンターテインメント賞・音楽賞 4賞受賞作品

「青−chong−」は、在日朝鮮人である監督・李相日が映画学 校の卒業制作で撮った作品だ。テーマも朝鮮人学校に通う、ある男子高校生の葛藤…。それが「ぴあフィルムフェスティバル」でグランプリを受賞し、そのまま一般公開される。映画界の新鋭・李相日とはいかなる人物か…?
(撮影/中野昭次)




−−大学を卒業してから改めて映画の学校にお入りになったとか。なぜ映画の道に?
「血迷ったんです(笑)。大学卒業前に、映画の現場を体験をしまして。一番下っぱの制作進行助手だったんですけれど。お茶を入れたり、弁当を配ったり。撮影中は監督の大きい灰皿と椅子を持って、監督について歩きました。だけどそんな中で、映画を作っていく過程を見て“自分もやってみたい”と」
−−映画は昔からお好きだったんですか?
「普通に好きでしたね。昔はそれこそ、ハリウッド映画とかわかりやすいものが…。『スターウォーズ』を見て興奮したし、『ダイ・ハード』はスゴイなあと思ったし。
 でも映画学校に入ると“ああいうのは日本では作れないんだ”とわかる。それじゃあ、実際、僕らが撮れる可能性のある人間の心情を描いたものを見ようと、日本映画やフランス映画やアジア映画の方に、興味がシフトし
たという感じです」
−−そして映画学校の卒業制作が、この「青−chong−」という作品。在日朝鮮人である ひとりの男子高校生が“自分は何者なのか”いう問いに目覚めて…というお話ですね。こういうテーマで撮ろうと思ったわけは?
「日本の若い人と、僕ら“在日”の若い人に向けて作りたかったんです。在日問題については“日本人が差別して排他的だ…”という片一方の論議ばかりよく聞くじゃないですか。でも一方で、実は在日の方も閉鎖的で、日本逆差別をガンガンしているんです」


−−「青−chong−」の中でも、主人公のお 姉さんが結婚相手に日本人を選んだのでひと騒動。その日本人男性が、とびきり辛いものを食べさせられるシーンがありましたね。
「ええ。あそこで逆差別的なことを簡単に説明したかったんです。でも、娘が結婚相手を家につれてきて父親が反対するという光景は、普通のことでもあるんですよね。相手が朝鮮人でも他の外国人でも。あるいは同じ国の人間であっても…。それが、すごく当たり前のそのままの姿なんです。
 仲間内の在日には“そんな被害者意識で凝り固まらずに、もっと前向きになろう”と言いたい。一方で日本人に伝えたいことは…僕は大学に入った時、初めて日本人の友達ができたんです。高校までは朝鮮人学校に通っていたから。で、大学で感じたんですが、若い日本人は在日問題についてほとんど知らないんですね。“どうでもいいじゃん”って、そういうのを国際的感覚とカン違いしている…。だけど知った上で“関係ない”というのと、知らないで“どうでもいい”と言うのはすごく違うと思うんですよ。
 知った上で“関係ない”と言ってほしいと僕は思うんです。“同じものを食って、同じ所に住んで、同じテレビを見て…という人が、ちょっと違う何かを持っている。そういう違う所を持った人間が、確かに隣りにいる”
ということを知ってもらえれば…」
−−テーマを実際に画にしていく上で、なにか特にご苦労なさったことはありますか?
「当たり前のことなんですが、撮影費用が無かったということ。お金が無いので、尺=映画の長さも短くしなきゃいけない。ロケは、舞台になる朝鮮人学校が借りられなかったので、日本の学校を6箇所くらい借りて、それぞれ教室とか廊下とか屋上とかグラウンドとか…工夫しながら分けて撮影しました。俳優は、俳優の養成所の人に“僕らも勉強なので、どうか勉強だと思ってお願いします”と、基本的にノーギャラで出てもらいました。
 それから、僕は映画学校の実習にはきちんと出ていたけれど、理論の講義には出ていなかったんです。だから演出やカット割りを学校で習わなかった。それで、いざ自分が脚本を書いてそれを画にするとなった時に、何も教本がないんです。その時にお手本にしたのが、北野武監督の作品。武さんはすごく生理的に好きな監督なんですよ。彼の作品をお手本にして、自分の生理と照らし合わせながら…そういう作業で、なんとか撮ったのが『青−chong−』です」


−−そして作品が出来上がって、どうでしたか?
「これはマズイなと(笑)。最初に現像所でスタッフみんなで見た時はさんざんでした。上映中も誰もクスリとも笑わず無反応だったし、終わった後はうつむいている。そこで無理に感想を言ったもらったら、ネガティブな発言ばかりが飛び出して…。だけどその後の卒業制作発表会ではなかなか好評だったので、ホッとしました。思えば、撮影スタッフは最初からオチも知っているので、ああいう反応も自然だったのかなあと…」
−−その作品が、第22回ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを含めた4賞を受賞。いろんな映画祭にも招待されて…。
「でも、最初の上映会の印象が強いので、い
まだに“どこかで誰かウソをついているんじゃないか”と思うことが…(笑)」
−−朝鮮人学校の野球部を舞台にした、男の子同士の友情。クラスの美少女への淡い想い。不良とのケンカ…。なにげない光景が、シンプルだけれど味わい深い画面で語られていますね。とても言葉少なに…。
「男同士で電話すると20秒ももたないじゃないですか。“じゃあ明日5時”とかいって、それで切っちゃう(笑)。映画の中で台詞が多いのは、基本的にあまり好きじゃないんです。なるべく絵の並びで、その心情みたいなものを表現したいなと思いまして」
−−その画作りの方ですけれど、なにか“こだわり”のようなものはありますか?  
「こだわりというよりは自分の“好み”ですね。僕はあんまりバーッと画面が動いたり、カットが割れたりというのは好きではないんです。見ていると頭痛がしてくるので。それに、そういうのは自分の想像で組み立てられないんです。組み立てられる人はスゴイなあと思うけれど」



−−たとえば、男の子二人がボンと画面の真ん中にいるだけ。それだけなのに、画面が退屈じゃないんです…不思議ですね。
「多分、その二人のたたずまいが、何か事が起こった結果としてのリアクションだからかな。リアクションから先に見せて、次にその原因を見せるという作りを所々に入れたんです。最初はなんか変だなと思っても、ちょっと慣れてくると“あ、これは変な絵だ。なんのリアクションなんだろう?”と思ってもらえたらいいなと思って」
−−ちょっとした違和感が次の興味につながるという感じですね。ところで、タイトルの「青−chong−」ですが、なぜこうなったん ですか?
「この作品は、タブーを笑いにしている部分があるので“じゃあタイトルも、言ってはいけないタイトルにしよう”と放送禁止用語の“チョン”にしたんです。ハングルの発音で
は“青”もチョンと発音するので、それをかけまして。
“青”については、単純に蒙古斑みたいなイメージですね(笑)。青くて恥ずかしい青春時代の象徴のような…。一応、映像に青をたくさん入れているので、その意味もこめてあります」
−−監督ご自身、この映画の主人公のように、高校生時代は野球部でだったとか。監督にとって“青春”とはなんですか?
「恥の掻き捨て…ですかね」
−−じゃあ、この映画はその記念?
「そうかもしれませんね。多分、これからもどんどん恥をかきながら生きていくんだろうとは思うんですが…。でも当時の恥は許してもらえる恥だったので、まあ“掻き捨て”ということで(笑)」
(撮影/中野昭次)

執筆者

かきあげこ

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