ベルリン国際映画祭でベルリナ—レ・カメラ賞を受賞をした熊井啓監督の新作、『日本の黒い夏−冤罪−』の全国公開が24日より始まり、初日となったこの日、熊井監督をはじめ出演された中井貴一さん、寺尾聡さん、細川直美さん、北村有紀哉さん、加藤隆之さんらによる舞台挨拶が、都内4劇場で開催されました。モデルとなった現実の松本サリン事件から6年、ゲストの皆さんはご自身の事件当時の思いなどを交えながら、作品に関して語ってくれました。ここでは、新宿東急にて3回目の上映前に行なわれた舞台挨拶の様子をお伝えします。






舞台挨拶は、地方テレビ局の報道部長・笹野役の中井貴一さんからスタート。「20世紀の中で、松本サリン事件は、日本人にとっても世界にとっても忘れられない大きな事件。21世紀になって同じ過ち、それはサリンであり、冤罪でありそういうことを繰り返して欲しくないという想いで作品に臨みました」と語る中井さん、今回も撮影前に監督とはかなり話し合いの機会を持ち、意見の食い違いなどの穴を埋めて撮影に臨む、それが中井さんのもっとうとしていることであり、その成果は作品を観れば明らかです。
冤罪の被害者役の寺尾聡さんは、今回被害者役を演じながら当時自分自身も冤罪をかけていた側の人間であったという認識をあらたにしたとのこと。そう、当時多くの日本人は意識するしないに関わらず、この事件に関わっていたんです。寺尾さんの映画デビューはやはり熊井監督作品の『黒部の太陽』。それ以来、熊井監督作品には出たいと思いつづけ、今回話があったときも、台本も読まずに出演を決めたとのこと。長いキャリアの中で実在の人物を演じるのは初めてという寺尾さんですが、熊井監督のドキュメンタリー作品ではなく劇映画なのだから、モデルの方がいる中で外面ではなく内面をつくっていきなさいという言葉に従い、今回の仕事はスタートさせたそうです。
ゲスト陣の紅一点、若手報道記者・花沢を演じた細川直美さんも、事件当時は事件の実像を知ることの無いまま、報道で伝えられた部分だけを友人に話したりしていたことが頭に浮かび、複雑な気持になったそうです。また、「監督は細かく全体を見て演技指導をしてくれながら、本番前にはそれまで聞いたことは全部忘れてと、自由にやらせくれ、いい緊張感の中ですすんでいく現場でした」と、熊井組の撮影現場の雰囲気も披露。






舞台挨拶でも息の合ったところを見せていたのは、若手報道記者・浅川役の北村有紀哉さんと、同じく浅川役の加藤隆之さん。「台本を読み、当時俺は何をしたたのかと思うくらい何も知らなくて、恥ずかしかったのですが、一生懸命勉強して映画全体のテーマと思い入れっがドンドン入っていけるようになりました」(北村さん)、「僕自身この映画に関わって、今自分が生きている中で大きな事件の深い部分を見ていなかった。こういうものは残しておかないといけないと感じました」(加藤さん)と、それぞれ若い世代らしく率直に当時の事件と自身について語りました。若い世代を代表しての彼らの思いのこもった演技に応えるかのように、場内には若い世代の観客の姿も多く見受けられました。
監督の熊井啓さんはご自身も松本市の出身で、事件を非常に身近に感じまた強いショックを受けたとか。「全ての俳優・スタッフが出来うるかぎりの力を注いでこの映画をつくったつもりです。この事件に関しては多くの被害者がいらっしゃいますし、地下鉄サリン事件その他なども松本サリン事件がきちんと捜査され、報道され、市民が受け止めていれば起きなかったと思います。そうしたことを考えながら、また亡くなられた方々への鎮魂の思いをこめてつくりました。また、こういう映画は難しい傾向に走りがちですが、この映画をつくりながら、若い人たちへの希望といったものを残したいと思ってつくりました。出来上がった作品は、ここにおられる皆さん方のものですから、どうか若い人たち、大勢の方々にご推薦いただければと思います」と、舞台挨拶をしめました。
なお本作は、渋谷東急3系劇場にて全国ロードショー公開中です。

執筆者

HARUO MIYATA

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作品紹介
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