五木寛之のベストセラーエッセイ「大河の一滴」が神山征二郎監督、新藤兼人脚本で映画化する。出演は安田成美、渡部篤郎、倍賞美津子、三國連太郎のほか、世界的なトランペッター、セルゲイ・ナカリャコフ。13もの映画化作品を持つ五木寛之だが「これほど望ましいスタッフ、キャストに恵まれたのは初めて」と言う。既に撮影を終え、編集段階に入った同映画。3月5日には恵比寿ウェスティンホテルにスタッフ、キャスト総勢12人による会見が行われた。
※ 「大河の一滴」は9月1日、全国東宝系ロードショー






「ある年代から自分についても他人についても考え方が変化していきました。自力で頑張るという生き方から、大きな目に見えない流れに身を任せその中でベストを尽くそうという方向に」(五木寛之)。「大河の一滴」で送ったメッセージは老若男女問わず支持され、200万部を超えるベストセラーとなった。とはいえ、エッセイを映画化する労力は計り知れないものがある。「いえ、原作が素晴らしいのでシナリオはやり良かった」という新藤兼人に対し、「監督としては難物だった」(神山征二郎)。
主人公・雪子を演じたのは7年ぶりの映画出演となる安田成美。「雪子は娘っぽさをまだまだ残した女性なんですが、現実の私は母としての生活が基盤。当初は不安もありましたが、結果的に楽しく演じることができました」。雪子に密かに思いを寄せる幼馴染に渡部篤郎。彼いわく念願の共演だったとか。「役としては今までやったもののなかで一番難しかったですね。普通の人を演じるのがどんなに大変か思い知らされました」。また、当日の会場にビデオメッセージを残したロシア人のトランペッタ—、セルゲイ・ナカリャコフもトランペッター役で初の映画出演に挑んだ。玄人はだしの日本語で雪子の人生を変える重要な役を演じている。
雪子の両親に倍賞美津子、三國連太郎。2人とも五木寛之がこれまでの執筆活動のなかで密かに思い描いていた役者だった。「金沢ロケの時、別の撮影も進行していまして、それが72歳の役でした。実年齢に近い本作とごちゃごちゃになって少し戸惑いましたね」(倍賞)。三國連太郎のもとに話が舞い込んだのは“仕事がイヤになって山ごもりをしていた頃”と言う。「自我の強い私がこんな役をやっていいのかと…。何せ、クランクアップの時に“お前みたいなヤツとは2度と仕事したくない”と言われたことも多々ありましたからねぇ」とは言うものの、口ぶりは至って穏やか。「自分自身の自我と役を混在させないように、五木先生の精神状態になったつもりで演じました」。現在、編集も大詰め。音楽を担当した加古隆は会見のあったこの日にスコアを渡したとか。2001年大本命の国民映画公開まであと半年。大河のように時が流れるのを待つとしよう。

執筆者

寺島まりこ