沈黙は悲鳴で破られる——。「羊たちの沈黙」から10年、全米史上初の4800スクリーンという快挙を成し遂げた「ハンニバル」が4月7日から丸の内ルーブルほか全国松竹系で公開になる。全米オープニング記録樹立、ヨーロッパ各国でも初登場1位のレコードを携え、5日、主演のアンソニー・ホプキンス、プロデューサーのディノ・デ・ラウンティス、マーサ・デ・ラウレンティスが来日。前作でオスカーを獲得したサー・アンソニー・ホプキンスは「レクターは猫のような優美さと女性的なクリエィティヴティを持った人物」と語る。ディノ・デ・ラウンティスからは気になる続編の話も出、ファンに嬉しい東京ロケの可能性も示唆した。





——「羊たちの沈黙」から10年。サー・ホプキンスにお尋ねします。レクター博士を引き受けた理由は。
ホプキンス 前作でレクター博士は世界に知られ、観客は彼に興味を覚えた。私が惹かれる役柄は観客が惹かれるキャラクターだ。博士は普通の人が届かない影や暗闇に潜み、観客や私はだからこそ惹かれるのだと思う。

——ジョディ・フォスターが降板した時、どう思いましたか。
ホプキンス ジョディ・フォスターが出演を断った時は正直なところ失望した。が、なるようになるさと考え直した。実際、ジュリアン・ムーアは素晴らしい女優だったしね。ジョディの後にこの役を演じる勇気も評価したいが、撮影まで綿密に準備するプロ意識の強い女性だった。

——レクター博士はこの10年間、何をしていたのでしょうか?空白期間があることによって役に入りこむことが困難になりませんでしたか?
ホプキンス ただ、歳を取っていたのでは。いや、食べ過ぎて太ったのかもしれない(笑)。10年の歳月は特に問題を感じなかった。なにせ、私の仕事は俳優ですから。時間通りにセットに行って最良の演技をする。観客は役柄と俳優を混同しがちだが、私はハンニバル・レクターではない(笑)。これは仕事、もちろんすごく興味深い仕事だが。料理の腕前といえば、ゆで卵すら作れないほどだよ。

——博士はクラリスをどう思っていたのでしょう。
ホプキンス 私はただの俳優に過ぎない。ライターが書き上げたものを分析して演じるだけ。ただ、彼女に惹かれているのだとしたら、正直で誠実、そして腐敗に強く何物にも汚されることのない精神だと思う。





——前作では“レクターは猫科の動物をイメージした”とコメントしていました。
ホプキンス 彼は殆ど檻の中にいたから動きが制限されていた。私は彼の姿を無駄のない動き、猫のようにしなやかで美しい動きとしてイメージした。猫科の動物と、レクターの中にある女性的な要素。レクターのそれは女性の持つクリエイティブなパワーに近しいものがある。
 
——原作と違うラストが待っていますが。
ディノ 原作がどんなに素晴らしくても、映画の結末として正しいか、正しくないかをプロデューサーは見極めなければならない。ラスト近くのショッキングな頭のシーン——映画を観てない人のために詳しくは語らないが、あの場面を使ったバージョンと使わないバージョンと2種類用意した。結果的に使った方がより映画的になると判断した。
マーサ 切ったシーンはたくさんあります。原作ではフィレンツェでもう一人の連続殺人犯のエピソードが絡んでいますが、ハンニバルが刑事に犯人を示唆するシーンも撮っていたのよ。カッポーニ宮で床掃除人が一瞬映るけれど、実はあれが犯人。でも、実際に公開されている映画では床を掃除している人としか映ってないんですけどね(笑)。

——3作目の話も既に出ているとか。東京が舞台になるとの噂も聞いたんですが。
ディノ ホプキンスもやってくれるそうだし、続編は出来るだろう。トマス・ハリスの続編を待っていられるほど私は若くないので(笑)、オリジナルになる。その時はハリスにコンサルタント役をお願いするつもりだ。
舞台については…まだ詳しいことは何も決まってない。「ハンニバル」のラストで飛行機内でレクターに声を掛けるのは日本人の男の子だ。ということは…東京に向かう飛行機である可能性は高い。私自身、日本が大好きなのでこの国に数ヶ月滞在するのも悪くないだろう(笑)。その線で進めたい気もするが、どうなるかはまだわからないね。

執筆者

寺島まりこ