いよいよ、ソフト・ショップの店頭に『発狂する唇』のDVDが並んだ1月25日、東京渋谷のアップリンク・ファクトリーでは、DVD発売記念トーク・ショーの第2夜が開催されました。この日のゲストは、『発狂〜』をはじめ多くの作品の脚本を手がけ、国産ホラー映画ブームの中心人物の一人である高橋洋さん。また、急遽欠席された佐々木浩久監督に代わって、『発狂〜』で里美の母親暎子役を好演し『血を吸う宇宙』にも続投、ご自身も監督としても活躍されている吉行由実さんが登場。「暗いものを呼び込む何かを背負っているワリには明るい」佐々木監督の話から、『発狂2〜』こと『血を吸う宇宙』の撮影風景、ロマン・ポルノのこと、そして観るものを何故か魅了してやまない映画の“魔”についてまで、多彩でマニアックなトークが繰り広げられました。前編は、『発狂〜』に関して・・・・後編は、新作と脚本家・高橋洋氏の監督作品の話。



吉行−−高橋さんが監督をされるという話を、数年前から伺っていたんですけど…
高橋−−『女優霊2』です。去年の暮から脚本にかかっていて、5月くらいから撮影に入れると思います。早ければ年内公開予定です。
吉行−−同じ霊がまた引き続きで出てくるんですか?
高橋−−基本的な考え方はそうなんですけど。『女優霊』をやってから、黒沢(清)さんや鶴田(法男)さんも撮って怖いものはほとんど撮りつくした感があるんですよね。と言うか、皆仲間みたいなもので、今度あれやろうとか言ってた間柄ですから、お互いにもう出尽くした感がある。近々公開される黒沢さんの『回路』が、ほぼ集大成か…って感じで怖いのを突き抜けてますね。もうここまで行っちゃったら、幽霊なんて怖くない。何か新機軸を考えないと。恐怖に対して不感症なんですよ。まぁ、岐阜の町営住宅のポルターガイスト事件みたいなのは、やっぱり嫌ですけど。
吉行−−私『女優霊』を最初に観た時は、日活のあそこって本当に何かがいる感じがしてたんで、余計怖くて…
高橋−−あれは、最初にシナ・ハンで撮影所の中を懐中電灯の灯りだけで上がって行って、一番上の部分で、「これは絶対まずいよね…」話したことから始まったんです。
司会−−吉行さんの近況は?
吉行−−本を初めて出しました。『ぴんく』というタイトルで文芸社からなんですけど、ピンク映画の裏話や私の個人的な恋愛経験の失敗談とか…失敗談しかないんですけどね(笑)。軽いエッセイ集です。後、丁度今日発売で『バルドゥ 感じるままに』という、今までのVシネマとはちょっと違って、女性向ということで作りました。ちょっと、エロティックなラブ・ロマンスです。私は、ピンク映画でやっていても変わらないですけど、普通にSEXで人の恋愛感情が揺れ動いたりするよね…ってテーマがあり、これもその一例です。


高橋−−映画監督というと、『女優霊』も映画を撮る話でしたけど、今回自分が監督するのも、結局何かしら架空のありもしない人物や出来事を捏造していることの後ろめたさと、それが現実に関わってくる接点。なんかそういうのって、怖いじゃないですか。『女優霊』のそもそものアイデアはそこなのね。そういうこと感じませんか?
吉行−−相手役の男の人をかなり捏造している感じはしますね(笑)。現実ではなかなか出逢えないような。
高橋−−現場では怖いこととかないですか。
吉行−−ありますよ。Vシネのパッケージ撮りをしていた時のポラロイド。H系だったんで、胸を隠していたんですけど裸で。そうしたら、腰の辺りに黒髪の束がうつっていたんです。私の髪はそこまで長くないしカールしてたんですけど、その黒髪は直毛で。バックが障子だったんですけど、『リング』の時の顔みたいに、グニャグニャ…となっていて。ストロボがつかなかったりでカメラマンもおかしいって。で、その後が怖いんですけど、翌日私の腋の下が腫れたんですよ。膿がたまっちゃって。その後は、何もありませんでしたけど…。
高橋−−現実に関わってくるっていうかね。映画界で最大級は、ロマン・ポランスキー監督ですね。彼は、相当ヤバイ。奥方であったシャロン・テートがマンソン・ファミリーに殺害される事件がありましたが、一番僕が観て怖いのは『マクベス』です。元々のシェイクスピアの戯曲にもある一家を皆殺しの場面は、明らかにシャロン・テート事件の再現なんです。それをポランスキー自身がやっている。その時の現場って、きっと陰惨だったんだろうなぁ…その感じが映っている。最後にマクベスが首を刎ねられる部分のダミーの芝居のつけ方とか、陰惨だよなぁ。こういうことを思いつく人って、何かね。そういう匂いを映画って持っているんだな。映画に映っている“魔”みたいなもの。そういうのをやりたいんだけど、どうしたらいいんだろう…難しいんですけどね。ポランスキーがどういう技を使っているのかそれを知りたいんだけど、技じゃなくて映っちゃうものがある。普通は、映画を観てると物語にくみこまれているから、あまり知覚出来なくて、逆にスポットCMとかで抜かれた時に、ショットの違った力が伝わるとか。そういう技を、なんとか使いたいですね。


吉行−−高橋さんが監督をやりたいと思われたのは、脚本家以前からなんですか。
高橋−−元々、8mmなどの自主映画出身ですから。『発狂〜』とかは、自分が撮っていた自主映画に一番テイストが近いんです。それで、映画の世界で食えないかと思っていたら、たまたま脚本を書く機会があって、最初は生活を安定させて好きなものをと思っていたけど、シナリオ作り自体も奥が深く、そちらの探求で1本も映画を撮れないまま10年くらいたっちゃって。今回は、非常にやりにくい形ですね。きっと『発狂〜』みたいにどうでもいい形なら、楽しいんですがね。
吉行−−高橋さんが撮るというと、ホラーとしての期待度が高いじゃないですか。
高橋−−さっきもちょっと楽屋で話したんですけど、プログラム・ピクチャーがまともに機能した時代が一番いいんです。例えばVシネで、哀川さんが出てて極道路線とかの枠にさえはまっていれば好きなことができるし、かつ肩に力を入れずに色々な実験も出来る。黒沢さんも『CURE』クラスの作品をやる前に、哀川さんの『復讐』シリーズとかの低予算のVシネで、肩の力を抜いた時にいいのが出来る。そういう数を撮らせてみたいなのが一番いいですね。吉行さんみたいなスタンスがいいんじゃないですか。

執筆者

HARUO MIYATA

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