第27回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にてグランプリを受賞した 永山正史監督の『トータスの旅』。

4月の第10回田辺・弁慶映画祭セレクション2017のテアトル新宿の上映に続き、 新宿K’sシネマにて7月1日からレイトショー公開される。

反抗期真っ只中の息子・登(諏訪瑞樹)、ペットの亀と共に暮らすサラリーマンの次郎(木村知貴)。婚約者と共に突然やって来た兄・新太郎(川瀬陽太)の結婚式のため、無理やり旅に連れ出されることに。破天荒な兄の行動に振り回される旅の中で、次郎は今まで避けてきた妻の死に向き合わざるを得なくなる。

 

(c)永山正史 武田祥

1983年生まれの永山監督は、2012年に初監督映画 『飛び火』にてぴあフィルムフェスティバルに入選した。現在はフリーランスでCMやVP等のディレクター、カメラマンとして活動している。前作『飛び火』から数年が経ち、そろそろ次の作品を作りたいと考えていたときに子供が誕生。成長して行く過程で感じたことを映画にしようとこの作品を企画した。

 

 

一一子供の成長物語というより、お父さんの成長の物語と感じました。

永山:子供が生まれても最初は父親になった実感があまりなくて、正直言うとそこまで可愛いとも思えなくて。それが段々、僕の子供なんだ、親父なんだって自覚が徐々に高まってきて。可愛さもどんどん高まって来ました。

子供って心から叫んだり笑ったり、自由に身体を動かして、僕らがとっくに出来なくなった喜びの表現をするんですね。それが好きで。でも当たり前ですが、近所や周りに配慮してうるさい時は叱らないといけない。また僕らが子供の頃の空気とは変わっていて、公園に出かけても自由な遊びができなかったり、電車に乗っても舌打ちされたり、保育園建設への反対運動が起きたり、そういうことへの憤りや怒りはありました。

僕が思う映画の面白さって、社会の倫理とか常識なんかを取っ払った動物的な喜びを感じられるところなんです。僕が映画を見る理由もそこにあって。普段ガチガチに縛られているけど、映画の中では自由だということに凄く惹かれています。
それが子供を育てるって言う実体験があってより明確になりました。
だから僕はこういう映画が好きなんだって。改めてそういう映画を撮りたいなって。

 

70年代やATGの映画、日活ロマンポルノが好きという永山監督。田中 登監督の『(秘)色情めす市場』がとにかく好きで、その反骨感に惹かれるという。その感覚は『トータスの旅』でも反映されていると語ってくれた。

 

 

亀の歩きと男たちの旅

一一亀の歩き方が、地面を不器用に踏みながら一生懸命歩いているようにも見えて、男たちが成長していく姿と重なりました。 最初はお子さんの成長の過程を亀に投影しているように思っていたんですが、本編をずっと観ていくと不器用な歩きはお父さんにも見えます。

永山:亀の歩きを登場人物と重ねる、というのはあまり意識はしてなかったんですが、言われてみれば(笑)。陸を歩いている亀が撮りたかったんですけど、ホントはあれはミズガメだからタートルなんです。そうですね。それは多分人それぞれで。亀は亀だって思う人もいますし。そこは自由にとって頂いたら(笑)

 

『トータスの旅』では、常識の上に正座しているような弟に常識を丸めてケツを拭くような兄を演じた木村知貴&川瀬陽太コンビ、媚びない目が小気味良い諏訪瑞樹と、役者陣の活躍も見終わると語りたくなる。第10回田辺・弁慶映画祭 男優賞 、第17回TAMA NEW WAVE ベスト男優賞、共に木村知貴が受賞している。

一一役者さんの演技で、意図を越えて特に心に残ったシーンがあれば教えてください。

永山:木村さんも川瀬さんも含め、皆さん意図を越えてくるところはたくさんあり、そこが映画を撮 っていて面白いと思えるところです。
中学生の諏訪くんは決して達者なタイプではなく、テイク数も多くかかるのですが、時おりハッとするような表情を見せてくれたり、驚かされることがありました。
またヒーローものが好きで、身体の動きをキメすぎることがありました。最初は役柄に合わない気がして修正しようとしていたんですが、段々これは今の諏訪くんの記録でもあるんだと思って。そういうところも中学生男子らしくて良いと思うようになりました。設定と同じ実年齢の子を使うからには、器用に何にでもなれる演技よりもその子らしさが出てしまっている方が良いと思っています。
あと亀の演技は完全に意図を越えています。あんなに上手くいくとは思いませんでした。まるで意 思が通じているような瞬間がたくさんあり、奇跡みたいなショットが一発で撮れたり、不思議な体験でした。

 

一一最後に、映画を撮り続けるモチベーションは何でしょうか。監督にとって映画はどんな存在でしよう。

永山:自分は思春期を大分こじらせまして…。映画や小説や音楽だけが拠り所でした。いまだにそれを引きずっていて、何か表現で発散しないとやってられないような感じがあります。子供ができても30代を越えても治らないので、きっと一生それを携えて生きていかなければならないんだと思います。

 

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017・授賞式にて。トロフィーを手にする永山正史監督。

流すでも萎縮するでもなく、闘うことで

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017の授賞式で、印象的なことがあった。審査員の一人である女優のほたるさんから、コンペ作品に対して苦言があったのだ。

「全ての作品ではないが」と、前置きした上で、
「女性を欲望を受け止める道具か、母親としてしか描いていない作品があまりに多かった。女性の表現を考えて、もっと女優に仕事をさせてほしい」
この言葉に対する各監督の反応は様々だろう。

翌日の受賞作品上映の際に永山監督は、こうコメントした。

「僕らはファンタに応募するような監督なんで、映画の中だったら何でもできる、何でもやっていいんだっていう心で映画を作るんですけど、
映画には何でもできる力があるからこそ、人を傷つけることも簡単にできてしまいます。
僕らがやらなきゃいけないのは、人を傷つけるシステムとか、傷つけるやつらとか権力とかを打ち負かしたり、
傷ついた人や除け者にされてるような人を寛容に受け入れてあげたりする映画なんじゃないかって感じました」

その言葉には、全体に向けられた投げかけに対し、流すでも萎縮するでもなく、闘うことで回答を形にしようとする永山監督の姿勢があった。
そんな監督の撮った映画が『トータスの旅』だ。必見。

執筆者

デューイ松田

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