チベットには、盲目の人は前世の悪行が原因で悪魔に取り憑かれているという迷信があり、差別的な扱いを受け、親や社会から拒絶されるという現実にさらされていた。そんな子供たちに救いの手を差し伸べたが、自身も盲目のドイツ人教育者サプリエ・テンバーケンである。単身でチベットに渡り、チベット初の盲人学校を設立する。
 数年後、盲人として初めてエベレスト登頂に成功したアメリカ人登山家、エリック・ヴァイエンマイヤーに感銘を受けたサブリエと生徒たちは、登山のワークショップを開いてもらうために彼を学校に招待、そのことをきっかけにエリックと子供たちはエベレストの北側にある、標高7000mのラクパリ登頂を目指すことになる。

インタビューに応じてくれた本作のプロデューサー、シビル・ロブソン・オアーさんが放つ圧倒的なパワーを前にした時「夢は絶対叶う」と語る彼女に全く疑う余地がないという気にさせられる。エリックやサブリエ、ルーシー・パーカー監督を始めとするスタッフとともに、チベットの子供たちを導き、支え、そして支えられながらこの映画ができたのだろう。






——シビル・ロブソンさんは、知り合いの方から盲目登山家のエリック・ヴァイエンマイヤーさんを紹介されたことがきっかけで映画化に踏み切られたそうですが、エリックさんの第一印象は?
 最初、サンタモニカのレストランで盲導犬とエリックと彼の奥さんと私とで会ったんですが、会ってすぐに映画をやることは確信しました。なぜなら、チベットの困難な子供たちのことを聞いていて、“子供たちにとって自分が何かのインスピレーションを与えたい、助けてあげたい”という彼の気持ちに賛同したからです。彼と会って30秒で分かったことは、どうして彼がエベレストに登頂できたかということ。エリックは鋭い集中力の持ち主で、ぱっと見では盲目であることが分からないほど清らかな目をしていて、すごいユーモアセンスの持ち主でもあります。彼は目が見えないことを私たちに引け目を感じさせず、逆に自分をリラックスさせてくれる状況を作るのが上手な人です。彼は盲目だけれども、誰よりもすごいビジョンを持っています。

——危険と常に隣り合わせの撮影にあたって、プロデューサーとして特に気をつけたところは?
 撮るということをすぐ決めたんですが、すでにエベレスト登頂を成し遂げているエリックがやることに対しては、何か成し遂げられないことも全くないし、止めることもできないから、彼とは違う考え方、物の見方で進めなくてはいけないと思い、彼が何を言ったとしても彼についていくことを考えました。すごく良い映画になるとは思ったのですが、たった一ヶ月の準備期間では行けないと一瞬思いながらも、とりあえずできることから始めました。
 チベットや中国で撮影するためには許可証が必要で、普通の映画を撮影する大きなカメラでは入れません。ですから、2004年の春に撮影では、映画以前に子供たちが登るだけの体力があるかどうかもエリックが判断しなければいけなかったので、パナソニックVTX100という観光客も使う一般的なカメラを使えばすぐ許可をもらえるということで、それで撮影しました。2004年夏にイギリスに戻り、これは映画を撮るにあたるということで、事前にチベットと中国の政府に撮影リストを全て提出しました。でもドキュメンタリーだから何が起こるかわからないし、時にはリストにないことも撮らなければならない。ずっとチベット政府の監視の方が同行しているので、許可証以外の撮影については全て書き出され、入念なチェックがありました。最終的にはチベット側の人が、この映画が良いチベットの面を見せてくれることを知ってくれていたので、寛大で理解のある接し方をしてくれました。大変でしたけれどね。もう一つ困難だったのは標高の高さで、いきなり着陸した段階で空気が薄くて苦しい。インタビューでも常に誰かが咳き込んでしまう。重要な撮影で誰かが咳をしたら大変なので、水やミント、のど飴を常備しました。
 登山の場面に関しても大変でした。標高が上がるにつれ、チベットとネパールのガイドがついてくれたのですが、最高のプロダクションクルーが重い機材を持って先回りして。撮影担当のキース・パートリッジさんはいつも氷河にぶらさがっている程、山に慣れていたので(笑)、素晴らしい映像が撮れると自信を持っていた全員のがんばりがあるからこその撮影でした。

——ルーシー・ウォーカー監督はどういうタイプの監督で、また、監督は出演者たちとどのように信頼関係を築いていったのでしょうか?
ルーシーは、ドキュメンタリー映画『Devil’s Playground』でアーミッシュの子供たちが成人する前の一年間の多感な時をインタビューしていました。エリックからアプローチされてあと一ヶ月しかないということで、子供たちの共感を得られ、うまく引き出せる人じゃなければいけないということでルーシーに白羽の矢が立ちました。なぜなら、チベットの子供たちは盲目ということで、悪魔だと言われ、迫害されて生きてきている部分があるので、人に対して信用しない部分があり、さらにチベットの文化自体、知らない人に対して自分について語ることをしません。彼らは常にハッピーな部分の会話はするけれど、プライベートのネガティブな部分は特に相手に対して見せられないということで、彼らにとって語りにくい部分を引き出すのは大きなチャレンジでした。しかも子供たちは習慣的にもお互いに話さないし、聞かれたことがないから時間がかかったけれど、数週間から数ヶ月をかけてじっくり話しあって、徐々に心を開いてくれました。つまはじきにされたのは衝撃的だったけれど、経験談を聞くことによって、もっと深く彼らを知りたい、話を聞きたいと思うようになりました。
 子供たちは変貌を遂げ、3ヶ国語を操り、PCも使え、ラサから帰ってきたことで村ではロックスターのように扱われリスペクトされています。登山をしている六ヶ月の中でも14〜16歳の多感な時期の子供たちは成長していっていて、そういう部分で信頼関係をスタッフ全員と築くことができたと思います。

——子供たちの表情が映画の中でもどんどん明るくなっていって、観客として見ても希望を感じるし、人生の目標も考えさせられるんですけど、プロデューサーとして、この映画を通してあなたから伝えたいことを教えてください。
 この映画を撮って最も自分が喜ばしいと思っている部分は、全て彼らの夢が実現したということです。タシとテンジンはマッサージ・クリニックを運営しビジネスがとてもうまくいっているし、ゲンセンは点字の出版を始めて、ブラインドサイトの点字バージョンを出版、キーラはイギリスに一年留学し、今は国境なき点字学校を運営しているし、ソナムも高校卒業後アメリカに留学して英語の勉強をして通訳になりたいと考えています。
 私たちもこの映画に携わって人生が一変しました。困難を乗り越えた子供たち、サブリエの活動を見て、彼らがあれだけできるから私たちもできると思えるようになりました。『ブラインドサイト』は盲目の人達が大きな冒険に出て素晴らしい経験をして、希望を得る物語ではありますが、映画祭でも観客が感動を得るのは夢を叶える物語であることが大きいと思います。誰でも人間は弱い所がありますが、それは性格の一部であって、人間は弱いもので何かしら言い訳をつけて夢を諦めるけど、弱さを見つけて沈んでいる部分を浮かびあがらせてくれるチームを自分の周りで作り、一緒に前に進めば絶対夢は叶う。言い訳を言ってないで周りに人分を高めてくれる人を見つけること。エリック、サブリエや子供たちを見てそれは感じたことだから。

執筆者

Miwako NIBE

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