最近の松田龍平は、これまでの彼と比べて何かが大きく変わっている。それはスクリーンの中にいる彼を見るだけでわかるほど、顕著な変化だ。

何が変わったかと言えば、彼が演じるひとつひとつの役柄へのアプローチ、その役柄を演じる松田龍平としての存在の仕方である。そしてこの変化は役者にとってとても大きな変化なのではないかと、最近の彼を見ていると強く感じる。

この変化は一体何なのか。それを松田龍平は、3月31日公開『世界はときどき美しい』のインタビューで語ってくれた。慎重に選んで口にする彼の言葉からわかったのは、今作の1つ目のストーリー”世界はときどき美しい”の主人公・野枝(松田美由紀)が持つ”モデルとしての劣等感”と同じものを彼が抱いている、ということだった。——つまり、”俳優としての劣等感”。

しかし彼は、野枝と同じようにその劣等感を、劣等感のままにしておくことはしなかった。







——まず、本作への出演を決めたきっかけはなんだったんですか?

「御法川修監督はこの映画の前から知り合いだったので、いつか一緒にやりたいなと思っていて。それに脚本を読んで、とりわけ何か事件が起こるわけでもなく、ストーリーとして展開するわけでもないんですけど、そこで描かれているある種の日常を監督はすごくきれいに撮るんだろうなぁと。どう撮るのかを見てみたかった。実際初めて観たときに、ただ綺麗なだけで“綺麗だな”って言って帰れる映画ではないような、”何か”が心に残るような感じがいいなぁと思いましたね」

——5つのストーリーがある中で、松田さんが演じた”スナフキンリバティ”という話についてはどう思われました?

「今回5つの話があっても全部が合わさって1つという感じがしていて。その中でも『スナフキンリバティ』だけ、ちょっと日常と微妙に違うというか。撮影場所とかも、花畑とか展望台とか草原があるようなところだったりして、本の中の話みたいでした。それはちょっとほかの作品と微妙に違うんじゃないかなというのは感じました」

——やはり演じる上では『ムーミン』のスナフキンをイメージされたんですか?

「あまり僕はスナフキンをイメージしていなくて。むしろ初めに脚本を読んだときに、柊一という役が監督のイメージと重なりましたね。
御法川監督とは昔からの知り合いでもあったので。だから、監督を見ながら演じてましたね。それは別に御法川さんには言ってないし、僕が勝手に思ってたことなんですけど(笑)。柊一の言葉や雰囲気、映画全体の空気感が御法川監督のイメージですね」

”役者としての目標は何だろう、と考えたりする”

——1つ目のストーリー(”世界はときどき美しい”)の中で、「自分では物を作れないっていう劣等感がある」っていうセリフがあったと思うんですが、映画を作るうえで俳優として参加することについて松田さんが感じていることってありますか?

「あぁ・・・・そうですね。確かにその・・・演じるということに関しては形がないというか。目標もないし、何がいいのかもわからない。わからない中で、自分なりに消化した答えを提示しながらやる仕事だと思うんですよね。だからやっぱり、テレビでサッカー選手とか、マラソン選手、アイススケート選手とか見ていてすごく感動できて。この人たちはすごい努力を重ねた上で、金メダルだったり何かしらの(具体的な)目標に向かってやってるんだろうなっていうのを見ると、とても羨ましく感じますね。そういった意味では僕の、役者としての目標は何だろう、と考えたりもする。・・・なかなか確かなものを感じることは少ないんですが。そのときそのときで感じたこととか、“いやこうだ”って決めたことに偏りながら、物つくりをしていきたいなって思いますね。その一瞬を焼き付けるというか、フィルムの中に。
・・・・・そうですね、だからそういった意味ではやっぱり、去年とかもすごく考えていて。監督やりたいなって。やっぱり自分の感覚で物をつくっていきたい。役者じゃつくれないんじゃないかってことも考えたりしてたから・・・。今はまた違うんですけど。じゃあ役者で作ってみようじゃないかってことを自分なりに考えてみたりもしてて」

——考えが変わったきっかけというのは何かあったんですか?

「きっかけはないですけど、監督をやりたいと思って考えたその延長線上にそれがあっただけというか。でもやっぱり監督やりたいっていっても、ほんとに映画撮ってる監督の方たちはやっぱり、考え方が違うし。そう簡単に“じゃあ監督やります”とは言えない何かがある。だから、役者としてもっと深く自分を追求したいな、と」

——俳優として物を作るということを模索している感じですか?

「そうですね」

——徐々に考えも変わってきてはいるんですか?俳優として物を作るということに関してどうつくっていこうとか。

「そうですね、映画を作るのは監督かもしれないけど、その一部となる役をつくっていこうと。役者としてすごく必要なことは単純に、この映画もそうなんですけど何でもない日常の中に何か隠されているんじゃないかってことを考えてみたり、何か綺麗なんじゃないかっていうのを汲み取ってみたりってことだと思うから。そういうことをしていきたいなって思うだけなんですけど。そうやって役をつくると同時に映画をつくれたらいいなって今は思いますね」

——今は役者として最大限悩んでいこうと(笑)?

「うん、でも、いつか監督をやってみたいとは思いますね。監督して、自分の想像の世界を形にしたいなって。それはどんな形であろうと。けどとりあえず今は、これまでやってきた仕事をもう一度考えてみようって。
でも、つまらないというか何とも言えない映画ができたときには、結局は監督の責任にしたいな、と(笑)」

執筆者

林田健二

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