2004年1月28日より2月1日まで開催された第11回ジェラルメール国際ファンタスティック映画祭は、フランスは東部、雪山に囲まれたロレーヌ地方で開催された。まだまだ日本では知名度の低いこの映画祭だが、ホラーやファンタジーを扱ったものとしては、ヨーロッパでは抜群の知名度を誇る。

今回、コンペ作品の中には、三池崇史監督作品『カタクリ家の人々』が出品され、その反応は上々だったが、惜しくもグランプリは逃し審査員特別賞に選ばれた。このグランプリに輝いたのは、韓国からの金知雲(キム・ジウン)監督による『ア・テイル・オブ・トゥー・シスターズ(原題)』。同監督は、哀しくも残酷な家族の運命を描いた今作で、韓国若手映画監督としての地位を不動のものとした。

このコンペ部門の審査委員長を務めたのが、『ロボコップ』や『氷の微笑』、『トータル・リコール』などで知られるハリウッドの鬼才ポール・ヴァーホーヴェン監督。彼が扱う主題の多くは、オランダ時代から一貫して、性と暴力を中心にしたものが多く、徹底した残酷な描写は時に批評家や映画ファンの間でも賛否を巻き起こす。

近年も徹底してニュアンスを欠いた主人公たちによるSF戦争映画『スターシップ・トルーバーズ』や、全く共感度ゼロといっていいほどの自己中心的科学者を主人公とした透明人間もの『インビンシブル』など、まさしくヴァーホーヴェンならではという題材を力技とも言える演出力で語り切り、「良識派」からの圧倒的なひんしゅくを買うとともに、一部からの熱狂的な支持を得ている。また、予算規模としては「大作」級の作品を継続的に監督していながらも、「感動」や「共感」などはどこ吹く風といった妥協を感じさせないスタンスで映画作りを推し進めている。

この会見では、現在構想中の新作について、自らのハリウッドでの立ち位置について、俳優たちについて、率直に語ってくれた。



Q:あなたはヨーロッパ出身の監督として、ハリウッドで素晴らしい成功を収めたと思います。ファンタスティック映画や世界の、特にラテンやアジア映画についてどう思われますか?
A:アメリカでは、あまりそのような映画を見る機会がありません。ラテン映画では、『アモーレス・ペロス』や『シティ・オブ・ゴッド』のような映画は大好きですが、私はここに来て、アメリカにいる時より、ずいぶんアジア映画を見ました。中でも何が一番気に入ったかというと、シナリオがすごくリアルに描かれているということですね。

Q:監督は現段階でたくさんの計画をお持ちだとお聞きしましたが、具体的にはどのようなものですか?
A:ええ、たくさんあります。ハリウッドで最も難しいことは、映画を作るための資金面での調達です。現在はロシアの有名な作家ボリス・アクーニンの小説“ファンドーリンもの”の映画化を試みている最中です。ちょっと説明しにくいのですが・・・、これはフランスに置き換えて言えば大人にとってのタンタンのような存在だと思います。私はこの本を読んで、本当に子供心に戻った時のような喜びを感じました。だけど、この作品の映画化は1年半以上も前から難航しているんです。もちろん資金面での問題を抱えているということなんですが…。 それとは別に、モーパッサンの『モントリオール』という本を脚色する考えもあります。だけどこのような難解なストーリーは、さらに資金を集めるのが難しくなる。もし現段階で小予算の作品にしようと決めても、いずれにせよスポンサーを探さなければならないですからね。いつも簡単に物事は進まないけど、まだ望みは捨てたわけじゃないですよ。

Q:監督の作品では、必ず人間の隠れた側面を垣間見ることが出来ると思うのです
が、なぜそのようなアプローチをされるのですか?

A:私がSFを多く用いるのは、多くのメタファーを取り入れて物語を語ることができるからです。メタファーを使うことにより、より多くの主題を語れます。それは人間性の主題に到達することを可能にしてくれるのです。だけど、全ての私の作品がそうだとわけではない。 例えば『インビジブル』では、登場人物の人間性を語ることは出来ません。だけどおっしゃるように例えば私にとって大変重要な作品となった『ロボコップ』、この作品は、ロボットが主人公の物語で、殺された警官がロボットになり、少しずつ人間らしく変化していく。ある種フランケンシュタインの現代版を作りたいと思っていたのです。私にとって、それは・・・少しずつ人間化していくという重要なメタファーだったのです。




Q:『スターシップ・トゥルーパーズ』を見て感じたのですが、この作品は監督にとって、世界の現状を明確に反映させているものだと思われますか?
A:この作品は、9月11日のテロ以前に書きました。アメリカがイラクと闘う前にね。その頃、脚本家と私は既にアメリカ社会は“プレ・ファシズム”の状態になりつつあると感じていた。そして私達が持っていた予感が現実となったのです。思うに2003年は、この国のメッセージを刻印した年だと思います。多くの国がアメリカの下した決定に意義を唱えましたしね。

Q:あなたの友人アーノルド・シュワルツェネッガーが選んだ新しい職業について、どのように思いますか?彼が政治的野心を持っていたことに驚かれたんじゃないでしょうか?
A:全然驚きはしませんでした。既に彼は『トータル・リコール』を撮っていた80年代後半から、そんなことを話していましたから。彼のモットーは“ステイ・ハングリー”。現状に甘んじず、いつも新しいチャレンジに突き進む男なのです。ボディービルディングのチャンピオンからスターになり、現在は政治家です。それに彼は、以前から共和主義者であることを全然隠さなかった。 思い出すと、ブッシュの父が大統領だった時、彼は既に政府の諮問機関である保健体育評議会の議長だったしね。シュワルツェネッガーは長い間、情熱を注ぐことが出来るような作品を探し続けてきたけど、ハリウッドの状態は、少しずつ民主主義者が増えてきて、彼にとって興味ある映画が少なくなってきた。ある意味では、私も同じ問題を抱えていたんですが、ただ、私には政治的野心はなかったんです(笑)。

Q:『スターシップ・トゥルーパーズ』はファシストだと批評家に酷評され、『インビジブル』は、検閲によって多くのシーンをカットされましたが、将来まだアメリカで映画を撮り続けたいと思っていますか?
A:私は6年前、十字軍に関する映画に取りかかっていました。カロルコというプロダクションのもと 既にセットを作っていたのですが、突然プロダクションが倒産し、私達は1000万ドルを失ったのです。そんなわけで、主演のシュワルツネッガーにギャラを支払うことが出来ず、脚本権を彼に譲ったのです。そして彼は最近まで、何度もそのシナリオの映画化を試みたのですが、現在リドリー・スコットが同じような映画を撮っています。ハリウッドは同じテーマの映画を二つは作りませんから、結局計画は横に流れてしまったのです。 それとはまた別に、先週金曜にメル・ギブソンが監督した(新約聖書の)福音書を元にした『パッション』が公開されました。実は私は、キリスト時代のパレスティナ占領に関する、ユダヤ、アラブ、ロマンの民族戦争を描こうとしていて、福音書を元にしたメル・ギブソンとは違い、歴史的大作を作ろうとしていたのですが、それも同じような理由で製作が難しくなってきた。例えばレジスタンスを想像してみてください。もし、それが現在の出来事なら、キリストはパレスチナ人ということになるでしょう?
それから、ハリウッドでの私の行く先はだんだん険しくなってきたと感じます。なぜならあそこでは大予算で映画が作られます。私はもっと個人的な興味に基づく映画を撮りたいのですが、大予算と個人的なテーマを両立することは出来ません。だからヨーロッパに戻って映画を撮る、ということもあり得ます。なぜならヨーロッパは予算が少ないけど自由がありますからね。キリストについての話、それからナチズムについて、現在進めている計画は、1500〜2000万ドルの予算、『スターシップ・トゥルーパーズ』は1億ドルで作った映画です。

Q:『氷の微笑』以来、監督は今でもシャロン・ストーンと連絡をとっていますか?それから彼女のキャリアについてはどのように思われますか?
A:ええ、もちろん今でも連絡を取っていますよ。でもその内容は、いつも『氷の微笑』の続編を撮るか撮らないかについて。5年前から続編については話を進めていますし、定期的に話し合ってはいるんだけどね・・・。でも言ってしまえば、『氷の微笑』の続編を作ることはないでしょう。毎回、出来ると思って試みてはいるんですが、何かマイナス要素が発生し、いつも計画が白紙に戻ります。シャロン・ストーンのキャリアについては、彼女が犠牲者を演じない時は素晴らしい女優だと思います。彼女は支配する役柄を演じるとき、その才能を発揮するんだと思います(笑)。だから『カジノ』の時は凄く良かった。彼女自身が状況をコントロールする役どころだったからね。これは間違いなく、彼女自身の性格に関係するんだと思うよ。私が気付いたことを言うと、シャロンはより人間味溢れる役柄を演じる時は、何だか居心地が悪そうに見えますね(笑)。

Q:監督はヒットラーについての映画を撮る計画があるとお聞きしたのですが・・
・。

A:私はまずキリストについての映画を描きたい。ヒットラーはその後だね(笑)。訂正したいのですが、それはヒットラーの人生を描く映画を計画しているのではなく、ナチズムについての物語を描きたいのです。この映画は、1929年にドイツで書かれた『サクセス』という小説を元に、ナチが台頭してきた1922から1925年にかけてヨーロッパで起こった出来事を描いています。もちろん、その中にヒットラーは登場しますが、彼が主役ではありませんよ。危機に陥った女性が主役、とだけ言っておきましょう(笑)。

執筆者

魚住桜子