催眠術のような、実態の掴みきれない夢のような感覚を(ガンズ監督) 『ジュヴォーダンの獣』来日記者会見
18世紀フランス・ジュヴォーダン地方で起きたフランス史最大の謎、《ジュヴォーダンの野獣》の伝説が、最新VFXと斬新なアクション描写、そしてヨーロッパ映画界を代表する若手俳優陣の共演で完全映画化された。フランスで公開されるや、瞬く間に大ヒットを記録したこのファンタスティック・コスチュームプレイ大作『ジュヴォーダンの獣』が、いよいよ来年の2月より日本でもロードショー公開される。
12月5日には、これまでもファンタスティック映画ファンの間で根強い支持を得てきたが、本作を見事に大ヒットに導いたクリストフ・ガンズ監督と、それぞれ物語に重要な役で出演し私生活ではパートナー同士でもある、ヴァンサン・カッセルさん、モニカ・ヴェルッチさんが公開に先立ち来日を果たし、パークハイアット東京にて来日記者会見が開催された。
二人で熱々なオーラを振りまいているヴァンサンさんと、モニカさん。それぞれが日本に再び戻って来れたことの歓びを語り、初来日のガンズ監督は、「日本映画に強い情熱を感じてきた。作品を通じてどのように反応してもらえるか楽しみにしています」と挨拶し、様々な質疑応答が行われた。また、会見後には、タレントの辺見えみりさんが、ゲストへの花束のプレゼンターとして登場、「映像自体が絵を見ているようで、冷たさ、暖かさ、優しさが伝わってきて世界に入っていけました。アクションが凄く、終わった時には拍手をしてました」と、すっかりはまった作品世界についての感激を伝えた。
Q.ヴァンサンさんんとモニカさんは今回の作品中ではあまり絡む場面はなかったですが、お二人で一緒に映画に出ることに関して教えてください。
ヴァンサン・カッセルさん——一緒に仕事をすれば一緒の時間が増えるので、嬉しいね。この作品に続いて、ギャスパー・ノエの新作でも共演したし、その他にもいくつか企画があります。
モニカ・ベルッチさん——お互いに仕事があり、それぞれ別の仕事をしていたり旅をしていたりも多く、普段一緒に入れる時間が短いので、一緒の仕事でにいれるということは、とても嬉しいことですね。
Q.ヴァンサン・カッセルさんに、今回激しいアクションがありますが、普段から訓練などを行っていたのでしょうか?
ヴァンサンさん——僕は映画の世界に入る前にサーカスの学校に行き、ダンスのレッスンから入ったんだ。その時にはその素養が俳優になってから役立つとは思いもしなかったんだけど、映画の世界に入って格闘シーンなどを演じるときに、それがまさしくダンスと同じようなものだったことに気づきました。
Q.クリストフ・ガンズ監督に、キャスティングについてお聞かせください
クリストフ・ガンズ監督——キャスティング中に、同時進行でシナリオの方も進めていきました。シナリオ・ライターが役者としてのキャリアもある方で、二人で脚本を書きながら、この役はあの役者さんにみたいに楽しませてもらいながら進めた記憶があります。そのように台詞を書きながら役者を決めていったので、書きあがった時には役者も決まっていたのです。サミュエル・ル・ビアンを起用したのはジャン・ポール・ベルモンドのイメージからです。ヴァンサンは、役者として非常に複雑な側面を持っていて、今回の映画のジャン=フランソワという複雑な役のニュアンスを出すために、彼にお願いしたのです。
Q.作品の見所をお願いします
ガンズ監督——私が映画監督になりたいと思ったのは12歳くらいの頃ですが、今回の映画は催眠術にかかったようなトランス状況みたいなものを描きたいと思ったんです。それは、少年期に自分がふれた作品から強く感じたものであり、それを再現してみたかったのです。そんな実態の掴みきれない夢のような感じを、感じてくださればと思います。
モニカさん——私はこの作品の中にガンズ監督の才能の全てが集約されていると思います。この作品には多くの人物が登場し、そしてアクション、スリラー、ロマンチックさ、感動などを堪能していただけると思います。そういった色々なジャンルのミックスが一つの特徴であり、そういった部分をお楽しみいただければと思います。
ヴァンサンさん——今回の映画は、何と言ってもモニカとの共演という部分を見て欲しいね(笑)。フランス映画においてこのようなキャスティングでこのような作品を撮ることは、大きな賭けで大きなリスクも伴いました。ですけど、出来上がった作品は昔の伝説をテーマにストーリーを作っているが、若い俳優陣でそのような物語を作り上げたという賭けの部分を楽しんで欲しい。この作品は、本当にどの作品とも似ていないユニークな作品なんだ。この映画は、フランス映画やヨーロッパ映画が長い間閉じ込められていた作家性といった部分から、外の世界に向けて導いてくれるきっかけとなる作品だと思ね。
Q.モニカさんの作品は日本では4本上映されていますが、官能的な部分が強調されているような感じを受けますが、ガンズ監督の演出をお聞かせください。また、カッセルさんもモニカさんと数本の作品で共演されていますが、彼女が変わらない部分また今回新しく見せている部分などお聞かせください。
ガンズ監督——モニカは演技においても、ヨーロッパ映画において重要な位置を締めていると思います。ひじょうに豊満であることが彼女の魅力でもあるわけですが、それは60年代の女優さんのただグラマラスに存在するだけというものではなく、その豊満さを演技の上でひじょうに役立てていると思います。それは、今のヨーロッパ映画には無い美しさで、それは私だけの眼から見た評価では無いと思います。今回一緒に仕事をして、強いスター性を感じました。
ヴァンサンさん——モニカは映画を成功に導いた人物を演じていますし、ストーリーの中では面白みがあり重要な役でした。モニカが持っている官能さとは彼女の全身から出ているものだと思いますが、確かに多くの人の視線がそこに注がれていることを感じますが、ギャスパー・ノエ監督の新作の中のモニカを見れば、そのような見方をしていた人たちはきっと驚くと思うよ。
モニカさん——監督さん、ヴァンサンともそのように考えていてくれて、非常に嬉しいです。自分がそのような信頼を受けているということは、作品の中に出ているのではないかと思います。ガンズ監督は今回私と始めて仕事をしたわけですけど、肉体的な美しさだけを美しく撮るのではなく、知的な部分をだしストーリーを導いてくれました。私の演じるシルヴィアという女性は大変強くモダンな女性ではありますが、時代劇の中でそうしたところが素晴らしく描かれたと思います。
Q.フランス映画は『デリカッテッセン』以降、新しくなりつつあると思います。そこには技術の導入という部分もあると思いますが、リュック・ベッソン監督のような商業映画の枠以外の道で、フランス映画のポリシーを追求する道はあるとお考えでしょうか。それぞれお聞かせください。
ヴァンサンさん——あると思う。そのような傾向は、10年位前から出てきたものではないかと思うし、少し変わった映画についても高い技術が使えるようになってきたと思います。ただ、そういった状況はまだ弱く改革していく余地はあると思いますが、フランス映画の新しい傾向が伸びてきたと思います。フランス映画は、今大きな力を発揮している最中で、国際的な規模で作品も配給されていますので、ハリウッド映画にはまだまだ敵いませんが、そうした地位を築いていくよう努力したいと思います。
モニカさん——マンガなど様々なジャンルを映画化するものが増えています。そうした作品が世界的に配給されていきますし、フランス映画も世界的になっていくと思います。
ガンズ監督——その答えにお答えするには、この映画のヒットした理由を少し説明すればいいのではないかと思います。今、若い映画人は地上の状況を空想的に描く傾向になってきていると思います。この映画もまさにそんな作品の一つですし、フランスのみならず北米でも沢山の指示を得ることができました。例えばモンマルトルという実在の場所が映画に出てきても、それは映画人が描いたモンマルトルであり創造者の視点で作られたものだということが言えると思います。同じように本作の中のプロバンスも、自分が描いた空想上の地方です。監督は、それぞれの国ごとにオリジナリティを重視しながら、それを彼ら自身の目線で描いていくことがこれから重要になってきて、そうした作品が広い地域で配給されることにも繋がるのではないかと思います。
Q.ガンズ監督に、題材の伝説はフランスの方なら誰でも知っている伝説とのことですが、この伝説拘って映画化したきっかけを教えて」ください。
ガンズ監督——二つありまして、一つはフランス映画の伝統の中からこの40年くらいで消え去ってしまったスペクタクルという部分を描きたいと思いました。もう一つは、昔から何世代もの人が知っているという古い伝説を、映画の中で表現してみたかったんです。若い人たちの中には、この伝説を知らない方々もいますが、無くなってしまった懐かしいものの中に、新しく姿を消してしまったスペクタクル映画の要素を入れることで、二つの要素をつなげてみたかったんです。
なお、『ジェヴォーダンの獣』は2002年2月上旬よりニュー東宝シネマほか全国東宝洋画系にて拡大公開される。
執筆者
宮田晴夫