プチョン国際ファンタスティック映画祭は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭をモデルにして作られたアジア最大級のジャンル映画の祭典にして、日本から最も近い海外の映画祭だ。
今年の7月15日から25日まで行われたプログラムの中で注目したのは、2010年制作の香港のアクション映画『火龍(FIRE OF CONSCIENCE)』のダンテ・ラム監督と韓国の1970年代のテコンドーアクション映画の巨匠イ・ドゥヨン監督。お二人それぞれにお話を伺った。

最初に登場するのは、香港映画界のガンアクション番長、ダンテ・ラム監督。
日本では、プライベート写真流出で話題になったエディソン・チャンの香港芸能界引退作『スナイパー』や『ツインズ・エフェクト』の監督、と言えば通りが良いかもしれない。今年の東京フィルメックスでは最新作の『密告者(The Stool Pigeon /綫人)』がコンペ部門に登場。また、雑誌『BRUTUS』の映画監督論特集で100人の監督のチョイスに選ばれるなど、これからますます注目度がアップする予感。

プチョンファンタ・コンペ部門に登場した『火龍(FIRE OF CONSCIENCE)』は、『十月囲城』のレオン・ライと『ブレイキングニュース』『エグザイル/絆』『スナイパー』のリッチー・レンが主演。香港の雑踏を舞台に、警察と犯罪組織の中で複雑に絡み合う人間関係とリアルさを追求したガンアクションが展開する。
この二人の起用にも関わらず、まさかの女子受け皆無のもっちゃりした出で立ちでフィックス。ラム監督のアクションと人間ドラマのみで勝負するぜ!の心意気が見て取れる秀作となっている。今年のプチョンファンタのクロージングセレモニーでは、リッチー・レンが主演男優賞を受賞した。














『火龍(FIRE OF CONSCIENCE)』ダンテ・ラム監督インタビュー
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■「今の香港でアクションシーンを撮るのは苦労するよ!」
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■ラム監督のこだわり、アクション+人間ドラマ
——『火龍』のタイトルの由来を教えてください。
ラム監督:150年程前、香港のある地方で大流行した疫病を鎮める儀式で、火の龍が象徴的に使われたことから、毎年祭りが行われるようになったんです。“火龍”という象徴的なトピックを使った理由は、全ての人が、ガン細胞のように悪い気運を持っていると考えるからです。本人がコントロールできるなら普通の生活ができますが、コントロールが効かなくなれば、150年前のように、事態はどんどん悪い状況に陥っていくでしょう。

——前作の『証人(BEAST STALKER)』、『火龍』の魅力は、悪役が単なるステレオタイプではなく、主人公や悪役、それを取り巻く人々が同じ地平線にいる事です。それぞれが傷を抱えていて、求める物を追求した結果が善悪にカテゴライズされる。タイトル『火龍』は追い求めながらも届かない理想の象徴のようです。こういった複雑なストーリーを好んで描かれるのはなぜですか?
ラム監督:既存の香港の作品がアクションにフォーカスを当てているとしたら、私はドラマ的な要素とアクションを結び付けたかった。キャラクターの奥深い所、心理のディティールや人間的な面を描きたかったんです。

■防犯カメラをスタッフが…!
——『証人』は、昨年のプチョンファンタで監督賞を受賞しましたが、前作よりうまく行ったと思う点や、苦労した点を教えてください。

ラム監督:最近は映画を作る時、中国と香港の合作映画という形でないと難しいんです。そこで『証人』では、あえて香港にフォーカスを当てました。幸い好評だったので、今度はもっと香港にこだわり、“火龍”を使いました。今回は街中のアクションシーンが多いんですが、通常は政府の許可が下りないと撮影できないんです。でも、街中は人が多くて危険なので中々許可が下りない。そこでこっそり撮って逃げたんです。撮影した場所は香港で非常に有名な場所で、最近はあらゆる所に防犯カメラが設置されています。爆破のシーンでは、やはり許可が下りなかったので、スタッフが防犯カメラを塞いで急いで撮って逃げました(笑)。アクションシーンを撮るのは苦労しましたね。

■俳優にイメージと正反対の役を演じてもらう
——日本でも撮影に対する規制は厳しいですが、香港も似たような状況なんですね。次は俳優についてお伺いします。今回の主役、レオン・ライさんとリッチー・レンさんはいかがでしたか?
ラム監督:私は割合俳優に自由にやらせる方です。始める前にはキャラクターについて、どういう気持ちでどういう状況におかれているか、完璧に説明して撮影をスタートさせるので、その後は彼らの芝居を信用しています。
2人とも経験豊かな俳優さんで、彼らに対するイメージというのはある程度決まっています。それと違う役を演じてもらうことによって、リッチー・レンさんの場合はロマンティックコメディに良く出ているので、今回はアクション物に挑戦してもらいました。
レオン・ライさんも、今までと違う役作りをする自由な空間、チャンスを与えたかったんです。

——レオン・ライさんの部下で、強面なのに子煩悩、殺人の容疑をかけられるリウ・カイチさんも印象的でした。
ラム監督:この人も経験豊かなベテラン俳優さんで、去年の作品、今回、そして新作と3本続けて一緒に仕事しています。新作は彼が主役の1人。彼は非常に芝居が上手く、一緒に仕事をする周りの俳優にもいい影響を与える素晴らしい俳優なんです。新作のタイトルは『密告者(The Stool Pigeon/綫人)』。『証人』の続編です。戦時中鳩がメッセンジャーの役割を担ったんですが、そこから来た秘密めいたスパイのような意味を持ったタイトルです。彼はTVBというTV局のアクターズスクールでチョウ・ユンファと同期だったんですよ。

——それは面白いですね!妻を人質に取られたため、犯罪組織に加担しながら罪の意識に悩むワン・バオチャンさんも印象的でした。

ラム監督:彼は中国では謎めいた、ベールに包まれた俳優と言われています。彼は正式には芝居の教育を受けていないんですが、少林寺で自らカンフーを学んでアクションにも非常に秀でています。また、俳優の協会に加入していなかったので、なかなかチャンスが巡ってこなかったんです。それで彼はいつも映画会社の前に陣取っていたらしいんです。ある日チャンスが巡ってきて、私は彼をエキストラとして一回使ったんですけど、あまりに熱心にやるので、そういう人って目に付くじゃないですか。今は有名になりましたが、非常に一所懸命な俳優さんです。

■日本にガンマニアが多いのは知ってるよ!
——俳優さんたちの演技も魅力なんですが、ダンテ・ラム監督の作品と言えばなんと言ってもガンアクションです。以前、監督自らがフォームについて指導されているのをメイキングで拝見した事がありますが、今も同じスタイルで撮影されているんでしょうか?

ラム監督:私は実際香港にあるガンクラブのメンバーで、ガンに関してかなり詳しいポジションなんです。フォームを正確に知っているので、映画でそれを仕切るのが好きなんです。もちろん、アクション専門の演出や監督もついているんですけど。他のガンアクションを扱った映画を観ると、俳優さんが間違ったポーズを取るのが意外に多い。それがちょっと嫌で、できるだけリアリティがあるものが撮りたくて自分が参加しているんです。

——監督の作品に出てくるガンは映画向けに改造したものですか?日本のガンマニアが喜ぶポイントがありましたら。
ラム監督:撮影に使っているガンは本物。日本にガンマニアが多いのは知っています。おもちゃのガンを見たらほとんどがメイドインジャパンだから(笑)。私の映画は、銃器に関しては自分がマニアなので他の映画とはレベルが違うんじゃないかな。日本のガンマニアのみなさんも私の作品を観れば、他の作品とはガンアクションが一味違うのが分かるでしょう。

■緊張を楽しむ強さは、現場で学んだ
——今回、一番見ごたえがあったのは三つ巴になるレストランでのアクションシーンでした。
ラム監督:このシーンに使える時間は2日半で、ワンテイクで撮らないといけない状況でした。しかも爆発シーンがあったので、許可が下りない。短時間で撮り上げるために、完璧にコントロールしないといけなかったんです。全てのスタッフが緊張しながら撮った記憶があります。でも、非常に楽しい作業でした。

——そういった精神的な強さはどうやって手に入れたんでしょうか。
ラム監督:私は監督として正式に教育を受けている訳ではないんです。最初、非常に小さい映画会社に入って下積みから今に至るんですけど、現場で起こりうる出来事を経験として学んで来た訳です。普通の事ではあまりびっくりしないというか、悩む事はありません。又、性格そのものが、問題に直面して解決する事に喜びを感じるというか。一緒にやってるスタッフは大変だと思います。私の要求が厳しいので。でも満足できる作品になればいいんじゃないでしょうか。

■更にダークな領域に踏み込んだ『密告者』
——新作の『密告者』について詳しく教えてください。
ラム監督:今回の『密告者』は警察と密告者の関係を描いたものです。前の作品に比べてさらに心理描写にフォーカスを当てた作品です。先日プレス向けの試写会があったんですが、そこでは「絶望的なストーリーですね」って反応がありました。今トレイラーを持っているのでご覧になりたければお見せしますよ。

——ぜひ!
わざわざ部屋までノートPCを取りに行くラム監督。トレイラーを見せてもらいながら「カーアクションが激しいですね!ひょっとしてこれも許可は。。。」「取ってないよ!」穏やかな笑顔できっぱり答えるラム監督。
『密告者』は、人生どん詰まりのキャラクター達が黒い火花を散らす、怒涛のガンアクションと無許可のカーアクションが炸裂するポリスストーリーだ。日本公開に期待したい!

執筆者

デューイ松田